SCIフォーラム インタビュー【市野 恵】

市野 恵(いちの めぐみ)

特定非営利活動法人地域福祉サポートちた 代表理事
三重県出身。学生時代はバレーボールに打ち込み、高校時代には三重県選抜メンバーとしても活躍。その後実業団でプレーするも、怪我のため競技生活を終える。2002年愛知県知多市に転居。専業主婦として子育てをする中、友人からの声かけによりNPO法人地域福祉サポートちたの活動にボランティアとして関わるようになる。その後スタッフになり2010年から事務局長、2017年代表理事に就任。

地域に住んでいる人同士で助け合って、普段の暮らしを守り続けることはできないか

――市野さんのこれまでのお仕事や活動をお聞かせください。

市野 私はトヨタ自動車特許部へ入社しつつバレーに明け暮れていたので、INAXでの5年間で事務の基礎を学びました。夫の転勤で知多半島に引っ越してきました。初めての土地で周りに友達が誰もいなくて、地域の中で孤立していました。当時子どもは小学1年生と年中に上がったばかり、その上、夫は帰ってくるのが遅いという状況の中で、誰にも相談できずに子育ても孤立していて、とてもつらかったです。そのときに、地域福祉サポートちたから「ボランティアをしませんか」と声をかけていただき、少し気晴らし程度にと思いながら軽い気持ちでボランティアを始めたのがきっかけで、地域の活動に関わるようになりました。

市野 愛知県の知多近郊の地域は、仕事の関係で他地域から来ている人たちが多い地域です。いわゆる核家族や単身者が多い。もし、家族の中で誰かに障害があったり、自分が障害や高齢になったりして助けが必要な時にどうするか。近くに血縁者がいなくて誰にも頼れなくなるんじゃなくて、地域に住んでいる人同士で助け合って、普段の暮らしを守り続けることはできないだろうかと、一人の男性の経験を基に、家事援助のボランティア活動が始まりました。この活動が細切れ、単発で終わるのではなく、みんなで地域を支え合うための人材育成をやっていきましょうということで、NPOの代表たちが決起し「地域福祉サポートちた」ができました。主な活動は自宅に訪問して、介護などの支援のための福祉資格講座をはじめとするシチズンシップ教育などの人材育成を行っています。

 

介護は今、お金を払ってもサービスが受けられないという現状がまだまだ知られていない

――今、この地域の課題、(この地域というのは知多というよりも名古屋、東海地域ということで良いですが)地域の課題としてどのようなことを感じていますか。

市野 企業に勤めている方が多いので、介護あるいは障害という、誰もが通る道にもかかわらず、どこか人ごとであって「お金を払えば何とかなる」と思っている方が多いのではと感じます。でも、介護の分野は人手不足ですよね。今はどこの業種でも人手不足なのですが、特に介護分野の人手不足は深刻で、例えばいろいろな高齢者支援施設は建てられていますが、全床オープンできないところもあるので、入所できずに待機状態になっています。

市野 だから、「お金を払ってもサービスが受けられない」という現状がまだまだ知られていない。さらに、介護保険制度についてもあまり知られていない。今の制度は、要介護認定次第では認知症になっても入所できず、地域で暮らし続けなければならないのです。もちろん在宅支援のサービスメニューがあるので、いかに自分の暮らしに合った選択ができるのかが重要になってきます。そのような中で、「自分が望む地域での暮らし」ということをお伝えしていかなければならない、そこが課題だと思っています。

 

独身男性が、自分が介護を受ける立場になったときのことをイメージできていない

――当事者にならないと、なかなかイメージが湧かないということでしょうか。

市野 湧かないですよね。ボランティアやインターンシップで関わる学生や入庁2年目の行政職員に聞いても、祖父母と一緒に暮らしたことがないのでイメージができないと言いますから。あと、特にこの地域は製造業が多いので独身男性が多い。結婚しない、子どもがいない、自分が介護を受ける立場になったときに「どうするのか?」。この地域に限ったわけではないかもしれませんが、親子の関係や兄弟関係がすごく悪くて疎遠になってしまったとか、これまであった家族の形が崩れてきてしまった。非正規の人が病気になって働けなくなってしまった時に生活困窮に陥ってしまう。セーフティネットとして生活保護制度はあっても、誰とも話ができずに社会から孤立してしまうと、生きがいは見出されるのだろうか。そんな課題感を持っています。

企業人でなくなったとき、初めて自分の立場がどういう状況か知る、という状況が増えていく

――企業の方々には見えにくい課題なのでしょうか。

市野 そうですね。今や珍しくないのかもしれませんが、突然会社がなくなってしまうという経験や定年退職も含めて、会社を離れてみて初めて家庭の立ち位置だったり、地域の中で「自分がどういう立場なのか」ということを初めて認識するのだと思います。周りを見れば奥さんは楽しそうに友達と遊んでいるけれども自分には友達がいない、ということから始まり、自分の価値観を周囲に押し付けて地域の中で浮いてしまう。そんなことがすでに起こっていますし、これからも増えていくと思っています。

――なるほど。そういう意味では、それが個人の課題ではなく、社会が持つ課題だということをどう認識できるかということが、企業側にも必要だということでしょうか。

市野 そうですね、大いに必要だと思います。現役から退職後の生活も含めて地域とつながっておくことが勉強になる。人それぞれいろんな人生があるのだと。

地域と社員をつなぐために何らかの役割を持つ努力を

――企業は具体的にどういうことに取り組めるとお考えですか。

市野 そうですね。まず企業利益を考えれば、介護離職を防ぐために企業は努力すべきでしょう。そして、地域と社員をつなぐための役割を何らか持つことが必要だと思います。極端かもしれませんが40代50代の管理職はある意味、路頭に迷うでしょう。そのあたりはもっと考えていっていただきたいと思っています。

――多文化共生でも同じような感じのものがありますが、それが日本人であるわれわれでも、人ごとではないという状況が起こってきているということですね。

市野 そうですね、他人ごとではないと思います。障害があっても高齢になっても「私」の意思や権利はだれのものでもない。そこを大事にできる社会にしなければならないと思います。

 

企業の方にとっても、プロボノの活動を通じて社会課題と触れることは、とても重要な機会

――今後、SCIフォーラムに関わっていただくにあたり、期待することはありますか。

市野 とにかく今、人手不足ですよね。ソーシャルセクターも人手不足というか担い手が高齢化しています。愛知県ならではかもしれませんが、2010年度のNPO雇用調査では、全体の約75%が女性を占めています。こと福祉系に至っては80%強です。私も同じで、普段の業務の中で聞こえてくるのが、例えば、ITでの情報発信、資料を作ることなど、企業の方であれば当たり前のところかもしれませんが、私も含めて結構苦手だったりするので、そのような部分をサポートできるプロボノを、どんどん出していただけるとありがたいと思います。

市野 ここ何年かNPOで活動する中で、企業の方や行政職員とプロボノやインターンシップ事業を通じて思うことは、社会課題に出会うには、きっかけが必要なんだなと。プロボノやインターンシップはとても貴重な機会になっていると感じています。それと、ニュースや新聞で見聞きするのも大事ですが、それでは本当のニーズがわからないし、自分事になっていかない。企業や行政という組織の中だけではなく、社会という多様性の中で自分の感性を磨きながら、自分の幸せを見出してほしい。そこから生まれるアイディアや可能性、価値は大いにあると思います。

(インタビュアー:中島康滋)